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失意を乗り越えた先の“最強の証明” RSS

2016年12月28日 18時49分

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女子決勝戦、タイムアップのブザーが鳴り響いた瞬間、愛知・桜花学園の選手たちは歓喜を爆発させ、そして涙があふれる顔を両手で覆った。最終スコアは67−65。苦しい試合だったからこそ、そして、相手が宿敵・岐阜女子(岐阜)だったからこそ、喜びはひとしおだった。

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桜花学園は昨年までほぼ出場機会のなかった⑥赤木 里帆選手が台頭

桜花学園は、言わずとしれた高校女子バスケットボール界の絶対的女王だ。1年間の3つの全国大会(インターハイ・国体・ウインターカップ)を全て制する“高校3冠”を何度も成し遂げ、これまで果たした全国制覇は、なんとこのウインターカップで前人未到の62回に到達。だが、日本一の名門でありながら、今大会に臨む桜花学園は“挑戦者”でもあった。なぜなら昨年のウインターカップ、決勝で大逆転負けを喫していたからだ。

岐阜女子との壮絶な決勝戦に、49−54で敗れたのは今からちょうど一年前のこと。ただの負けではない。いまだ田臥 勇太選手(栃木ブレックス)を擁した秋田・県立能代工業しか成し得たことのない、3年連続の3冠獲得、つまり“9冠”の夢が、儚く散った敗北だった。

その喪失感の大きさは、プレッシャーを感じながら8冠まで積み上げてきた選手たち自身にしか分からないものだっただろう。
精神的ショックから立ち直るまでには、長い時間を要し、ウインターカップ直後の1月に開催された「全日本総合バスケットボール選手権大会(オールジャパン)」でも、桜花学園の選手に笑顔はなく、魂の抜けたような状態だった。

そんな挫折から立ち直り、悔しさをモチベーションに変えた桜花学園は、この一年間、より厳しい練習を積んできた。ただでさえ、④馬瓜 ステファニー選手、⑦粟津 雪乃選手、⑨山本 麻衣選手と、昨年のスタメンが3人も残った新チーム。圧倒的な前評判のとおり、“向かうところ敵なし”の状態で、インターハイも国体も優勝を果たした。

それでも、桜花学園の選手たちは口々にこう言っていた。ウインターカップの借りは、ウインターカップでしか返せない――。だからこそ、リベンジに並々ならぬ闘志を燃やして、今大会の決勝を迎えたのだ。

その決勝戦は、いきなり馬瓜選手がバスケットカウントで先制し、第1ピリオドを終えて24−15と桜花学園ペースで始まった。だが第2ピリオドは、岐阜女子の堅いディフェンスを前に11得点しか奪えず、前半を終えてそのリードは僅か4点に。そのまま第3ピリオドでは、⑥石坂 ひなた選手の3Pシュートなどで勢いに乗った岐阜女子の勢いにのまれ、後半開始5分でついに逆転を許してしまう。

このとき、昨年の決勝のことが頭によぎった観客も少なくないだろう。昨年も、前半12点のリードを奪いながら後半逆転された経緯がある。まさかまたもや、同じ展開になってしまうのか――。だが、今年の桜花学園には、この劣勢を跳ね返すだけのたくましさがあった。40−42の状況で取ったタイムアウト明け、④馬瓜選手、⑧佐古 瑠美選手、粟津選手が連続得点を挙げて再逆転。51−46で入った第4ピリオドも、岐阜女子が⑥石坂選手の3Pシュートなどで驚異の粘りを見せたが、馬瓜選手らが“ここぞ”という場面でシュートを決め、意地でも逆転を許さなかった。そして冒頭に述べたように67−65で逃げ切り、悲願のリベンジを果たしたのだ。

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「去年の負けがあった分、しっかり勝つことができてうれしいです。今年はチームが苦しい時間帯に結構得点ができたことが良かったです」と、喜びを語った④馬瓜選手。井上コーチも「試合内容としては練習してきたこととかけ離れていたので、不満はあります」と苦言を呈しながらも、「負けなかったことは良かったです。勝てた要素は、この1年間で去年の2年生が3年生になれたということ」と、選手たちの成長を口にした。

“「負けたことがある」というのがいつか、大きな財産になる――。”
この某バスケ漫画の有名なセリフを引き合いに出せば、桜花学園の「いつか」とは、まさに1年越しのリベンジを果たした今日のこの日だったのかもしれない。技術や体格の強さだけでなく、失意のどん底から這い上がってきたからこその、心のたくましさを兼ね備えた桜花学園が、接戦をモノにして最強を証明した。

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