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己を貫いた美しき敗者たち RSS

2016年12月26日 13時59分

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今年3月に亡くなったサッカー界のスーパースター、ヨハン・クライフは「勝利は貪欲に、少々汚くても構わないが、敗れるときは美しく」を信条にしていた。
ウインターカップが文字どおり冬の大会、つまり12月開催とった第19回大会(1988年)以来の出場となった浜松開誠館(静岡)は、意図したわけではないだろうが、クライフの信条に沿ったような戦い方を貫いた。

目標のベスト8まで勝ち進み、メインコートをかけて戦ったのは大阪薫英女学院。近畿の名門で、高校総体ベスト4。女子U-18日本代表の髙原春季ら、タレントも豊富な強豪校だ。一方の浜松開誠館は、全国中学校バスケットボール大会や都道府県対抗ジュニアバスケットボール大会などの経験者はいるものの、代表レベルの選手がいるわけではない。その候補に名前が挙がることさえない。それでも泥臭く勝ち上がり、美しく敗れた。

攻守において積極果敢な姿勢を示した浜松開誠館④陽本 麻優選手

攻守において積極果敢な姿勢を示した浜松開誠館④陽本 麻優選手

試合を振り返って、浜松開誠館の④陽本 麻優選手は「レベルが全然違いました。高さも、フィジカルも……フィジカルは私たちもインターハイ以降鍛えてきましたが、それを上回っていました」と脱帽する。

試合前から体格の違いは明らかだった。ゲームが始まっても、シュートチェックの上からシュートを打たれ、それが外れても、ボックスアウトの後ろからリバウンドを取られてしまう。それでも浜松開誠館の選手たちは体を張り続け、足を動かし、ボールに食らいついていった。

自分たちの得点が決まらず、相手に決められる一方的な展開。第1ピリオドを終えて6-25と大差をつけられ、心が折れてもおかしくなかったが、彼女たちはそうならなかった。
「自分たちは粘り強いチームだと言われているので、最後まで粘り強くやりきりろうという思いがありました」
④陽本選手はそのときの心境をそう語る。

第2ピリオド、第3ピリオドになると、アグレッシブさを取り戻した浜松開誠館がディフェンスでプレッシャーをかけ、三島 正敬コーチが「オフェンスを少し変えました。普通に1対1をしても守られるので、ずれを作るようにスクリーンを使った」作戦で活路を見出した。決して無理なアタックはせず、しかし積極的にゴールを狙い、状況をよく見てチームメイトにアシストをする。パスを受けた選手がまた状況を素早く判断し、シュートをねじ込む。
そうして、第3ピリオドの途中には10点差にまで詰め寄ったが、再び大阪薫英女学院にギアを上げられ、高さを生かしたオフェンスでジリジリと離されていった。第4ピリオドになると浜松開誠館の足が動かなくなり、リバウンドも飛べず、苦しい展開となった――。

最終スコアは44-71。しかしコーチも選手も表情は晴れやかだった。

「負けはしましたけど、最後までディフェンスで粘って、オフェンスもリングに向かっていったので、自分たちのバスケットを貫くことはできたと思います」と、三島コーチがそう言えば、陽本選手も「第1ピリオドは自分たちのバスケットができなかったけど、途中からはベンチも楽しんで、全員で自分たちのバスケットができました。目標だったベスト8まで来られたことが、自分たちの誇りです」と胸を張る。

もちろん悔しさがないと言えばうそになる。だがその悔しさはスタメンに名を連ねた3人の下級生が、来年度以降に晴らしてくれるはずだ。

自分たちのバスケットを貫くからこそ、美しく散ることができる。浜松開誠館は、敗れてもなお拍手を送りたくなる、美しき敗者だった――。

ベンチも一丸となって目標であるベスト8入りを果たした浜松開誠館

ベンチも一丸となって目標であるベスト8入りを果たした浜松開誠館

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