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ある名将のラストクリスマス RSS

2016年12月25日 13時19分

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ウインターカップのみならず、高校バスケットボール界を沸かした名将が、2016年のクリスマスを最後にその舞台から静かに降りる。
来年3月に定年を迎える女子の山形市立商業の高橋 仁コーチにとって、JX-ENEOSウインターカップ2016はコーチとして最後の全国大会だった。

1回戦、2回戦を突破し、迎えた3回戦の相手は、これまでお世話になってきた井上 眞一コーチ率いる桜花学園。言わずと知れた高校女子バスケットボール界をリードする高校だ。

今年で就任28年目を迎える高橋コーチだが、それ以前は中学校の教師をしていた。当初は男子バスケットボール部を率いていたが、その後、女子バスケットボール部の顧問になったときに「日本一のチームとはどういうチームなのだろう!?」と、井上 眞一コーチに手紙を送り、1週間寝泊りをさせてもらいながら、その神髄を学んだという。

「その井上さんと最後のゲームになったのは何かの縁かな。井上さんからはたくさんのことを学びましたよ。特にディフェンスの厳しさや、ファンダメンタルの大切さ、そして厳しい練習の中で選手が自立するチーム作り。井上さんは指導者として大きな影響を与えてくれた人です」

そこから愛知学泉大学の木村 功コーチを紹介され、当時の共同石油(現:JX-ENEOSサンフラワーズ)を指揮していた中村 和雄氏、長崎・鶴鳴女子(現・鶴鳴学園長崎女子)の山崎 純男コーチなど、あらゆるカテゴリーの日本一のコーチたちと交わり、バスケットボールのコーチングを深めていった。

それでもすぐに結果が出たわけではない。むしろ高校バスケットボール界で山形市立商業の名前が出始めたのは、ここ10年くらいである。
それは周囲から「山形市立商業には独自の色がない」と言われたことがきっかけだった。それまで井上コーチをはじめ、日本一を知るコーチの真似をしていた高橋コーチだったが、ふと立ち止まり、考えた。どうすれば山形県にいる子どもたちに合ったバスケットボールができるのだろうか、と。辿りついたのが、170cmから180cmに満たない選手たちをオールラウンドにプレイさせる、現在の山形市立商業のバスケットの根幹となるスタイルだ。

果たして、大沼 美咲さん(元デンソーアイリス)を中心としたチームで第38回大会(2007年)、第39回大会(2008年)の銅メダルを獲得すると、第42回大会(2011年)には妹の大沼 美琴選手(現:JX-ENEOSサンフラワーズ)を擁したチームでの準優勝へと結実する。
さらに活躍は山形市立商業だけに留まらず、今年度は女子U-18日本代表チームのヘッドコーチとして、11月のFIBA ASIA U-18選手権でチームを準優勝に導いた。

試合前に桜花学園・井上 眞一コーチ(右)と言葉をかわす山形市立商業・高橋 仁コーチ

試合前に桜花学園・井上 眞一コーチ(右)と言葉をかわす山形市立商業・高橋 仁コーチ

桜花学園との3回戦は41-88で敗れたが、高橋コーチの表情に曇りは見えない。いや、心残りはあるし、ゲームが終わった安堵と寂しさもないまぜにはなっていたが、その表情はいつもの温和な高橋コーチだった。

ゲームについては「ラストゲームだし、出だしで突き放されて、ゲームにならないゲームはなんとしても避けたかった」とインサイドを固めて、前半の失点を30点に抑えた。
「前半は狙っていた以上の結果。でも後半は(桜花学園が)本気になりましたよね。ディフェンスの目の色が違っていました」

今後も高橋コーチを慕って入学してきた選手たちのために、練習の手助けなどはするそうだが、コーチとしてベンチの前に立つことは、もうない。

これまでのコーチ人生を振り返って、高橋コーチは言う。
「最後は負けて終わるんだけれども、いつかは日本一にという思いはありましたよね。5年前(2011年の第42回大会)にかなり近づいたときがあったけれども、でも諦めないでやっていれば、達成はできなかったけれども、かなり近づくんだなってわかりましたね」

日本一にはなれなかったが、チームディフェンスで桜花学園の攻撃を狂わせ、オフェンスでは175cmの⑥小鷹 実春選手が3Pシュートを決めるなど、オールラウンドにプレイする山形市立商業のバスケットスタイルは、間違いなく多くのファンの心に残り、日本中の多くの指導者が参考にできるところだろう。

結果としてはホワイトクリスマス(勝利)にならなかったが、チームが最後まで進化し続けて最後の全国舞台を終えられたことは、高橋コーチにとって、コーチ人生の最後にして最高のクリスマスプレゼントだったのかもしれない。

就任28年目で、27年連続27回出場したウインターカップ2016が、高橋 仁コーチの最後のステージとなった

就任28年目で、27年連続27回出場したウインターカップ2016が、高橋 仁コーチの最後のステージとなった

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