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脱皮していく少女たち RSS

2016年12月28日 17時12分

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サッカー界からの言葉で、「サッカーは少年を大人にし、大人を紳士にする」と言われる。それはバスケットにも通じることで、もじって言えば「バスケットは少年を紳士にし、少女を淑女(レディー)にする」といった感じだろうか。
ウインターカップも大詰めを迎え、一足先に最終日を迎えた女子は、大会を通じて、また高校生活を通して、レディーになっていった。

前回大会の優勝チーム、岐阜女子(総体2位)は大会2連覇に挑み、そして、敗れた。王座奪還に燃える桜花学園(総体1位)に67-65で敗れ、冬の女王の座を明け渡した。しかし岐阜女子が2年連続で決勝戦まで辿り着き、そこでも序盤こそリードを奪われながら、前回大会のような粘りを見せて一時逆転するなど、今大会でも接戦を演じたことは称賛に値する。

しかも今年は桜花学園のみならず、出場全チームから標的にされながら、昨年のチームとは違う布陣で勝ち上がってきたのだ。安江 満夫コーチも「勝負では負けましたが、成長率では負けていない。ここまで頑張ってきた子どもたちを誇りに思います」と言っている。

チームでひとつになって大会連覇と、桜花学園(総体1位)の高校3冠阻止に挑んだ岐阜女子(総体2位)

チームでひとつになって大会連覇と、桜花学園(総体1位)の高校3冠阻止に挑んだ岐阜女子(総体2位)

前日の準決勝でこんなことがあった。
前半、昭和学院(千葉)の⑦赤穂 ひまわり選手が岐阜女子のセンター⑦ディヤイ ファトー選手を厳しくマークし、なかなかゴールに詰め寄れない。そこでハーフタイムに選手たちはキャプテンの④石井 香帆選手を中心に話し合った。「パスでインサイドにボールを入れるだけじゃなくて、ドライブもインサイドにボールを入れることと同じだから、ほかの4人でもっと崩していこう」。それが功を奏して、1点のリードだけで終わった前半から一転、16点差で勝利を収めた。

前回大会の優勝にも貢献し、今大会屈指のポイントガードである――タイプは180度違うが、桜花学園⑨山本 麻衣選手と双璧をなすといっていい――岐阜女子⑤藤田 歩選手が言う。
「今年度のチームが始まったときは(自分たちで話すことが)できなかったけど、高校総体、国民体育大会と積み重ねてきて、コーチの指示を待つのではなく、自分たちがプレイするのだから、もっと自分たちで話し合ってやろうと決めたんです」

安江 満夫コーチが言葉を継ぐ。
「日頃から教えすぎないことを意識しています。もちろんさまざまな指導はしますが、それらのなかでどれをチョイスするかは選手の判断。特にポイントガードの藤田などは、決して運動能力が高い選手ではないので、状況判断がより必要になってきます。練習中のスクリメージでタイムアウトを取ることがあるんですけど、僕はそのタイミングで笛を吹いて、試合を止めるだけ。内容については選手たちでやっています。これが普段の岐阜女子のバスケットなんです」

チームの司令塔として2年連続で決勝の舞台に立った岐阜女子⑤藤田 歩選手

チームの司令塔として2年連続で決勝の舞台に立った岐阜女子⑤藤田 歩選手

決勝戦は安江コーチの指示もあったが、高い修正力を体現してみせ、最後まで岐阜女子のバスケットを貫いた。ただ、さらにその上をいく桜花学園の多彩で緻密なバスケットと、昨年度の悔しさを晴らそうとする執念を跳ね返すことはできなかった。
安江コーチが「(前回大会で)負けたほうが蓄積するエネルギーは大きい。⑦(ディヤイ)ファトーがサボっていたわけではないが、④馬瓜(ステファニー)さんは昨年負けた悔しさをエネルギーにしていました」と言えば、2年連続でチームの司令塔を務めた⑤藤田選手も「気持ちの差かなと思います。相手のほうが気持ちが強くて、ひとつ上でした」と、2点届かなかった理由をそう語る。

それでも敗れはしたが、自ら考える力を身につけた選手たちは、たとえバスケットから離れたとしても、自立した一人の女性として、それぞれの人生を力強く生きていくことができる。それは結果以上に、彼女たちにとって大きな財産となる。岐阜女子のバスケット部には少女を淑女にしていく力もある。

敗れはしたが、高校時代の経験はきっと大人になっても力になるはずだ

敗れはしたが、高校時代の経験はきっと大人になっても力になるはずだ

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