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現地レポート

失われた“ひたむきさ”を呼び起こした男 RSS

2016年12月24日 19時36分

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男子1回戦、初戦を迎えた福岡大学附属大濠(福岡)が、美濃加茂(岐阜)を相手に84-62で勝利した。

そう書くと、古くから高校バスケを見ている人は「妥当な結果だろう」と思うかもしれない。
しかし、そうではない。なぜなら福岡大学附属大濠はここ2年、全国大会で勝利を挙げていなかったからだ。つまり今日の勝利は、2014年12月28日以来、726日ぶりの勝利なのである。

試合後、チームを率いる片峯 聡太コーチも一安心といった様子で、ゲームを振り返る。
「選手たちにはいつも通りやろうと言っていましたが、東京体育館に入ると彼らの中にどこかで不安があったのだと思います。加えて、思いがけなく⑤西田優大が第1ピリオドでファウルを連続して犯してしまい、ベンチに下がらざるをえなくなって、展開が重たくなってしまいました。でもまさにそのときが我々のやってきたことを試されるときだと思いました。鍵冨太雅や立野友也がきちんと繋いでくれて、ゲームをコントロールしてくれました」

福岡大学附属大濠が2年ぶりに全国大会で勝利を挙げた最も大きな要因は、⑥立野友也選手や⑮井上 宗一郎選手ら、バックアップ陣が序盤の重たい空気を一変させたところにある。片峯コーチもそれを認めている。

特に⑥立野選手について、片峯コーチはこう続ける。
「1年生の頃からシュートが上手でしたが、それ以外にもリバウンドやルーズボールでも頑張れる子。だから常にベンチにいてほしい存在だし、彼のような選手をシックスマンに置けるのは安心感につながります」

その安心感から、高校総体に敗れて以降、片峯コーチは⑥立野選手を”練習キャプテン”に任命した。ゲームキャプテンはあくまでも④鍵冨選手だが、彼の負担を軽減させる意味でも、精神的な柱を⑥立野選手にしたのだ。それがチームを変えるきっかけとなる。

⑥立野選手はこれまで2年間、チームが勝てなかった理由をこう断言する。
「気持ちです。メンバーが揃っている分、ひたむきにプレイしていなかったり、泥臭いところから目を背けていたように思います。そこがダメだと思って、自分が練習キャプテンに任命されてからは、そこを率先的に自分が表現して、みんなに浸透させようとしてきました」
その言葉の通り、美濃加茂戦でもベンチから出てくると、持ち味である思い切りのよいシュートとともに、チームを鼓舞する声を出し続けていた。それを機に流れがガラリと変わったのは言うまでもない。

コート内でチームメイトに指示を出す福岡大学附属大濠⑥立野 友也選手

コート内でチームメイトに指示を出す福岡大学附属大濠⑥立野 友也選手

強豪校ではない太宰府市立学業院中学校時代を過ごした⑥立野選手は、「それでもずっと日本一になってみたいという思いを抱えていたので、親に無理を言って、大濠に入れてもらいました。だから誰にも負けたくないし、絶対に日本一になってやるという思いは、このウインターカップで誰にも負けていません」

この熱い思いこそが、これまでの福岡大学附属大濠に足りなかったところであり、⑥立野選手がチームに吹き込んだ、勝利に欠かせないエッセンスでもあったのだ。
2年ぶりの勝利に「ホッとした」という⑥立野選手だが、「チームとしても、個人としてもまだまだです」と気を緩めてはいない。
「でも今の大濠は、大会を通じてどんどん成長できるチームだと思います。気を引き締めて、明日からまた戦っていきたい」

この2年間もがき続けた福岡大学附属大濠にとって、この1勝は新たに生まれ変わるための確かな一歩である。それを引き出したのは、中学時代から名を馳せ、高校生年代の日本代表に名を連ねるような有名選手ではなく、日本一に対して誰よりもひたむきな思いを持ち続け、泥臭いプレイを厭わない、福岡大学附属大濠が誇る無名のシューターだった。

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