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現地レポート

歴史を作り、伝統を築く真のエースへ RSS

2016年12月28日 21時39分

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エースとはただ得点を多く取る選手のことではない。もちろん得点を取ることはエースの役割のなかで大きなウェイトを占めるものだが、真のエースは、チームが必要とするときに必要な形で得点シーンを生み出し、チームを勝利に導く選手のことだ。
その意味でいえば、東山④岡田 侑大選手は同校の真のエースへと進化して、今大会の舞台に立っている。

準決勝の相手は、練習試合を含めると今年度だけで3回対戦している北陸学院(石川)。2年生エースの⑫大倉 颯太選手を中心とした創部4年目の若いチームだ。東山はその北陸学院を89-70で一蹴した。

序盤から我慢を強いられる展開が続いたが、東山④岡田選手は冷静だった。
「競ることはわかっていました。相手はこちらの攻撃の組み立てをよくわかっているので、だからこそ僕が中心になって攻めるのではなく、むしろ攻撃の起点となって、(⑨カロンジ・カボンゴ)パトリックや⑤山内(佑真)を使うようにしました。いいオフェンスができたと思います」

④岡田選手が起点となって多彩な攻撃をすることで、当然、北陸学院のディフェンスは的を絞りにくくなる。そうして「パトリック選手を意識しすぎた」と話す⑫大倉選手は、自分のマークマンである東山④岡田選手に24得点を奪われている。チームの起点となることで、自らが攻め込む道を作ったわけである。

それがはっきりと表れたのが、7点リードで始まった第4ピリオドの序盤。⑨パトリック選手が3連続得点を挙げた直後のプレイだ。⑨パトリック選手の3本目のシュートをアシストすると、直後のオフェンスで3ポイントシュートを沈めた。これでリードは16点に開いている。

「今大会、3Pシュートは決して良い確率で決まっているわけではないのですが、いいところで入っている印象があるので、あの場面では思い切って打って、それが決まって点差が離れていったのかなと思います」

より幅の広いプレイができるようになった東山④岡田 侑大選手

より幅の広いプレイができるようになった東山④岡田 侑大選手

夏までは3Pシュートが得意ではなかった。今もまだ決して得意ではない。
しかし夏以降、岡田選手はその部分を積み上げてきた。少しでも3Pシュートの精度を高めることで、自身が得意とするドライブが生きてくる。クイックネスがあるわけではないが、緩急をつける、うまさのあるドライブ。そこからインサイドの⑨パトリック選手、もしくはアウトサイドの⑤山内選手にパスを供給し、ディフェンスが寄ってこなければ自らが得点をあげる。相手にとって、これほどやっかいな選手はいない。

3年間彼を指導してきた大澤 徹也コーチは、岡田選手の成長をこう評価する。
「感情をむき出しにせず淡々とやるヤツです。いくら逆境になっても動じなくなりました。今までだったら、追いつかれたり、思ったようなことができなければイライラして、シュートを落として、自滅するパターンが多かった。でも今大会は落ちついたプレイをしてくれています。徐々に成長しているんだなって思いますね」

そしてこう続けるのだ。
「練習もひたむきにやるんですよ。3年生が一番遅くまで練習をしているんですけど、それが東山のよい伝統になってくれたらと思います。岡田はそういう新しい伝統を築いてくれた一人です」

大澤 徹也コーチが現役時代に残した記録を越えた東山が、初のウインターカップ決勝に挑む

大澤 徹也コーチが現役時代に残した記録を越えた東山が、初のウインターカップ決勝に挑む

東山の、ウインターカップにおける最高成績はベスト8。大澤コーチが東山のエースとして出場した第30回大会(1999年度)の成績だ。その歴史を塗り替え、新たな扉を開いた今年度のエースは、高校総体の再戦となる福岡第一との決勝戦について言う。夏は前半で大きくリードしながら、後半、福岡第一の走るバスケットについていけずに敗れている。
「高校総体の決勝戦では相手にリードを奪われたときに諦めてしまって、足も止まってしまいました。その悔しさをバネに、負けているときこそチームでしっかり声を出して、走りきる練習を積んできました。明日も競ったゲームになると思うし、ビハインドになることもあると思います。でも夏と違って、今度は僕たちが走りきって勝ちます(大澤コーチ)」

歴史の扉を開き、新しい伝統を築いた東山のエースは、夏の悔しさを晴らす準備ができている。

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失意を乗り越えた先の“最強の証明” RSS

2016年12月28日 18時49分

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女子決勝戦、タイムアップのブザーが鳴り響いた瞬間、愛知・桜花学園の選手たちは歓喜を爆発させ、そして涙があふれる顔を両手で覆った。最終スコアは67−65。苦しい試合だったからこそ、そして、相手が宿敵・岐阜女子(岐阜)だったからこそ、喜びはひとしおだった。

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桜花学園は昨年までほぼ出場機会のなかった⑥赤木 里帆選手が台頭

桜花学園は、言わずとしれた高校女子バスケットボール界の絶対的女王だ。1年間の3つの全国大会(インターハイ・国体・ウインターカップ)を全て制する“高校3冠”を何度も成し遂げ、これまで果たした全国制覇は、なんとこのウインターカップで前人未到の62回に到達。だが、日本一の名門でありながら、今大会に臨む桜花学園は“挑戦者”でもあった。なぜなら昨年のウインターカップ、決勝で大逆転負けを喫していたからだ。

岐阜女子との壮絶な決勝戦に、49−54で敗れたのは今からちょうど一年前のこと。ただの負けではない。いまだ田臥 勇太選手(栃木ブレックス)を擁した秋田・県立能代工業しか成し得たことのない、3年連続の3冠獲得、つまり“9冠”の夢が、儚く散った敗北だった。

その喪失感の大きさは、プレッシャーを感じながら8冠まで積み上げてきた選手たち自身にしか分からないものだっただろう。
精神的ショックから立ち直るまでには、長い時間を要し、ウインターカップ直後の1月に開催された「全日本総合バスケットボール選手権大会(オールジャパン)」でも、桜花学園の選手に笑顔はなく、魂の抜けたような状態だった。

そんな挫折から立ち直り、悔しさをモチベーションに変えた桜花学園は、この一年間、より厳しい練習を積んできた。ただでさえ、④馬瓜 ステファニー選手、⑦粟津 雪乃選手、⑨山本 麻衣選手と、昨年のスタメンが3人も残った新チーム。圧倒的な前評判のとおり、“向かうところ敵なし”の状態で、インターハイも国体も優勝を果たした。

それでも、桜花学園の選手たちは口々にこう言っていた。ウインターカップの借りは、ウインターカップでしか返せない――。だからこそ、リベンジに並々ならぬ闘志を燃やして、今大会の決勝を迎えたのだ。

その決勝戦は、いきなり馬瓜選手がバスケットカウントで先制し、第1ピリオドを終えて24−15と桜花学園ペースで始まった。だが第2ピリオドは、岐阜女子の堅いディフェンスを前に11得点しか奪えず、前半を終えてそのリードは僅か4点に。そのまま第3ピリオドでは、⑥石坂 ひなた選手の3Pシュートなどで勢いに乗った岐阜女子の勢いにのまれ、後半開始5分でついに逆転を許してしまう。

このとき、昨年の決勝のことが頭によぎった観客も少なくないだろう。昨年も、前半12点のリードを奪いながら後半逆転された経緯がある。まさかまたもや、同じ展開になってしまうのか――。だが、今年の桜花学園には、この劣勢を跳ね返すだけのたくましさがあった。40−42の状況で取ったタイムアウト明け、④馬瓜選手、⑧佐古 瑠美選手、粟津選手が連続得点を挙げて再逆転。51−46で入った第4ピリオドも、岐阜女子が⑥石坂選手の3Pシュートなどで驚異の粘りを見せたが、馬瓜選手らが“ここぞ”という場面でシュートを決め、意地でも逆転を許さなかった。そして冒頭に述べたように67−65で逃げ切り、悲願のリベンジを果たしたのだ。

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「去年の負けがあった分、しっかり勝つことができてうれしいです。今年はチームが苦しい時間帯に結構得点ができたことが良かったです」と、喜びを語った④馬瓜選手。井上コーチも「試合内容としては練習してきたこととかけ離れていたので、不満はあります」と苦言を呈しながらも、「負けなかったことは良かったです。勝てた要素は、この1年間で去年の2年生が3年生になれたということ」と、選手たちの成長を口にした。

“「負けたことがある」というのがいつか、大きな財産になる――。”
この某バスケ漫画の有名なセリフを引き合いに出せば、桜花学園の「いつか」とは、まさに1年越しのリベンジを果たした今日のこの日だったのかもしれない。技術や体格の強さだけでなく、失意のどん底から這い上がってきたからこその、心のたくましさを兼ね備えた桜花学園が、接戦をモノにして最強を証明した。

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脱皮していく少女たち RSS

2016年12月28日 17時12分

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サッカー界からの言葉で、「サッカーは少年を大人にし、大人を紳士にする」と言われる。それはバスケットにも通じることで、もじって言えば「バスケットは少年を紳士にし、少女を淑女(レディー)にする」といった感じだろうか。
ウインターカップも大詰めを迎え、一足先に最終日を迎えた女子は、大会を通じて、また高校生活を通して、レディーになっていった。

前回大会の優勝チーム、岐阜女子(総体2位)は大会2連覇に挑み、そして、敗れた。王座奪還に燃える桜花学園(総体1位)に67-65で敗れ、冬の女王の座を明け渡した。しかし岐阜女子が2年連続で決勝戦まで辿り着き、そこでも序盤こそリードを奪われながら、前回大会のような粘りを見せて一時逆転するなど、今大会でも接戦を演じたことは称賛に値する。

しかも今年は桜花学園のみならず、出場全チームから標的にされながら、昨年のチームとは違う布陣で勝ち上がってきたのだ。安江 満夫コーチも「勝負では負けましたが、成長率では負けていない。ここまで頑張ってきた子どもたちを誇りに思います」と言っている。

チームでひとつになって大会連覇と、桜花学園(総体1位)の高校3冠阻止に挑んだ岐阜女子(総体2位)

チームでひとつになって大会連覇と、桜花学園(総体1位)の高校3冠阻止に挑んだ岐阜女子(総体2位)

前日の準決勝でこんなことがあった。
前半、昭和学院(千葉)の⑦赤穂 ひまわり選手が岐阜女子のセンター⑦ディヤイ ファトー選手を厳しくマークし、なかなかゴールに詰め寄れない。そこでハーフタイムに選手たちはキャプテンの④石井 香帆選手を中心に話し合った。「パスでインサイドにボールを入れるだけじゃなくて、ドライブもインサイドにボールを入れることと同じだから、ほかの4人でもっと崩していこう」。それが功を奏して、1点のリードだけで終わった前半から一転、16点差で勝利を収めた。

前回大会の優勝にも貢献し、今大会屈指のポイントガードである――タイプは180度違うが、桜花学園⑨山本 麻衣選手と双璧をなすといっていい――岐阜女子⑤藤田 歩選手が言う。
「今年度のチームが始まったときは(自分たちで話すことが)できなかったけど、高校総体、国民体育大会と積み重ねてきて、コーチの指示を待つのではなく、自分たちがプレイするのだから、もっと自分たちで話し合ってやろうと決めたんです」

安江 満夫コーチが言葉を継ぐ。
「日頃から教えすぎないことを意識しています。もちろんさまざまな指導はしますが、それらのなかでどれをチョイスするかは選手の判断。特にポイントガードの藤田などは、決して運動能力が高い選手ではないので、状況判断がより必要になってきます。練習中のスクリメージでタイムアウトを取ることがあるんですけど、僕はそのタイミングで笛を吹いて、試合を止めるだけ。内容については選手たちでやっています。これが普段の岐阜女子のバスケットなんです」

チームの司令塔として2年連続で決勝の舞台に立った岐阜女子⑤藤田 歩選手

チームの司令塔として2年連続で決勝の舞台に立った岐阜女子⑤藤田 歩選手

決勝戦は安江コーチの指示もあったが、高い修正力を体現してみせ、最後まで岐阜女子のバスケットを貫いた。ただ、さらにその上をいく桜花学園の多彩で緻密なバスケットと、昨年度の悔しさを晴らそうとする執念を跳ね返すことはできなかった。
安江コーチが「(前回大会で)負けたほうが蓄積するエネルギーは大きい。⑦(ディヤイ)ファトーがサボっていたわけではないが、④馬瓜(ステファニー)さんは昨年負けた悔しさをエネルギーにしていました」と言えば、2年連続でチームの司令塔を務めた⑤藤田選手も「気持ちの差かなと思います。相手のほうが気持ちが強くて、ひとつ上でした」と、2点届かなかった理由をそう語る。

それでも敗れはしたが、自ら考える力を身につけた選手たちは、たとえバスケットから離れたとしても、自立した一人の女性として、それぞれの人生を力強く生きていくことができる。それは結果以上に、彼女たちにとって大きな財産となる。岐阜女子のバスケット部には少女を淑女にしていく力もある。

敗れはしたが、高校時代の経験はきっと大人になっても力になるはずだ

敗れはしたが、高校時代の経験はきっと大人になっても力になるはずだ

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